名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)157号 判決
所論の要旨は、本件赤十字募金の保管は区長としての業務に属せず、赤十字社より委嘱された婦人会の執行委員である被告人の妻久子において徴収した募金六千三百七十円を夫である被告人に納付方を依頼したもので被告人がたまたま区長であつたというだけのことであるというにある。
刑法第二百五十三条にいわゆる業務とは職業若しくは職務を汎称するものである。
町村内の区長は一定の区域における住民団体の私的代表機関であつて区長として当然日本赤十字社のために募金及びその保管をする職務を有するものではないが、区長として日本赤十字社から募金を委嘱されてこれを受諾し、同社のためその属する区民から寄附金を募集しこれを所定の機関に引渡すまで保管する事務に従事することは、委嘱による職務として行うものであつて刑法第二百五十三条にいわゆる業務に該当するものというべきである。本件につき原審証人竹内伴介、同竹内義男、同林慎二郎、同山本義雄、同惣宇利久子の各供述、被告人の検察官に対する昭和三十年七月七日附及び同月八日附の各供述調書、被告人の司法警察員に対する昭和三十年六月三十日附供述調書岩尾良子、佐野甚七郎、木村浅治郎、峠平三郎の司法警察員に対する各供述調書、竹内伴介作成の昭和二十九年赤十字募金金額と題する書面、証第一号(社費納入通知書)、当審証人竹内義男の供述を綜合すれば被告人は鯖江市下小路区(鯖江第三区)長として日本赤十字社から昭和二十九年度の募金を委嘱されてこれを受諾したこと、被告人の属する下小路区は五班に分れ昭和二十九年当時第一班は峠平三郎、第二班は竹内伴介、第三班は斎藤武士、第四班は木村浅治郎、第五班は佐野甚七郎、が各班長なりしところ、被告人は各班長に赤十字募金を依頼し第一班、第二班、第四班においては各班長において募金をなしいずれもこれを昭和二十九年九月頃被告人に交付したこと、第三班及び第五班は班長において募金をなさなかつたので第三班については惣宇利久子(被告人の妻)及び岩尾良子の両名において募金をなし、第五班については右惣宇利久子外一名において募金をなしいずれもこれを惣宇利久子より昭和二十九年九月頃被告人に交付したこと、被告人は右各交付を受けた合計約六千三百七十円を鯖江市役所に引渡すために保管していたこと、の各事実が認められる。右保管事務は赤十字社より募金の委嘱を受けその職務としてなしたもので刑法第二百五十三条にいわゆる業務に該当するというべきである。岩尾良子の検察官に対する供述調書、原審証人林慎二郎、同山田はるゑ、同惣宇利久子の供述によれば、被告人の妻惣宇利久子は鯖江市婦人会第三区(下小路区)の執行委員であることが認められるので前記第三班、第五班の募金は赤十字社より募金の委嘱を受けた婦人会においてなされたものと認められないこともないが、たとえこれが婦人会においてなされたものとしても被告人においても前認定のとおり自己の属する区内において募金をなし、またこれを保管する職責があるものであるからこれを受領した以上は所定の機関に引渡すまで業務上保管する義務があるものといわなければならない。また業務上保管していた金員と個人的な委任による保管金とを混同して保管中これらを横領したときは業務上横領の一罪が成立し他に通常の横領罪が成立するものではない。前記三班及び五班の金員が個人的委任による保管金であつたとしても被告人は自己が業務上保管中の第一班第二班第四班の金員を混同して保管中これらを横領したものと前示証拠により認められるので本件犯罪の成立に消長はない。従つて原判決がその挙示の証拠によつて本件の赤十字募金として徴集した約金六千三百七十円を被告人が預りこれを保管していたことを刑法第二百五十三条にいわゆる業務と認定したことは正当であつて原判示事実中措辞に不十分の点はあるも原判決には所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 高城運七 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)